神戸地方裁判所 平成元年(ワ)1142号 判決 1991年5月28日
原告
高松良友
被告
明建こと石山明
主文
一 被告は、原告に対し、金二九七万円及び内金二七〇万円に対する平成元年一月二七日から、内金二七万円に対する平成三年五月二九日から、いずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その二を原告の、その三を被告の各負担とする。
四 この判決は、原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、金四九八万四一五五円及び内金四五二万一一五五円に対する平成元年一月二七日から、内金四六万三〇〇〇円に対する平成三年五月二九日(一審判決言渡の日の翌日)から、いずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、普通貨物自動車と衝突した所謂クラツシツクカーの所有者が、右衝突によつて右クラツシツクカーが破損されたとして、右普通貨物自動車運転者の使用者に対し、民法七一五条に基づき、損害賠償を請求した事件である。
一 争いのない事実
1 別紙事故目録記載の交通事故(以下、本件事故という。)の発生。
2 被告の本件責任原因(吉岡の過失を含む民法七一五条所定の使用者責任)の存在。
3 原告車が本件事故により全損した事実。
二 争点
1 原告車の種類、即ち、右車輌がクラツシツクカーであるか否かの事実。
2 原告における本件損害の具体的内容及びその金額。(弁護士費用を含む。)
第三争点に対する判断
一 原告車の種類。
証拠〔甲三、四、検甲一ないし六、証人田村、原告本人(一、二回)〕によれば、原告車は所謂クラツシツクカーであることが認められる。
二 原告における本件損害の具体的内容及びその金額
1 修理費 金二七〇万円
原告は、原告車の本件修理費として金三五二万一一五五円を主張し、右主張事実にそう証拠(甲二)もある。
しかし、破損車輌の修理費は、当該車輌の破損前における時価を限度とするのが相当であるから、右主張修理費をもつて即右説示にそう修理費とすることはできない。即ち、右主張修理費をもつて本件損害としての修理費とするためには、右主張修理費が右説示にかかる時価と等しいか右時価より低額であることを要する。
そして、右説示に関する証拠(甲一〇)もあるが、右文書の記載内容は、にわかに信用することができない。蓋し、右文書の当該部分は、その記載の体裁、掲載依頼先の信用度等から見て、必ずしも正確な右時価を表示しているとは認められないからである。
かえつて、証拠〔乙一、証人田村、原告本人(一、二回)。〕によれば、関係販売会社が原告車に近似する車輌を店頭で販売する場合、その小売り価格が金二五〇万円から金二七〇万円であること、原告は、本件事故前、原告車を日々丹念に手入れし磨き上げていたこと(したがつて、原告車の右事故前における外観・機能は右販売会社の小売りにも耐え得たものと推認できる。)が認められる。
右認定各事実に照らすと、原告の主張修理費が右説示にかかる時価と等額もしくは右時価より低額とは到底認め得ない。
むしろ、右認定各事実に基づけば、右時価は金二七〇万円相当と推認される。
しからば、右認定説示に基づき本件損害としての修理費は、金二七〇万円と認めるのが相当である。
2 慰謝料
原告は、同人における原告車の本件破損に伴う慰謝料として金一〇〇万円を主張している。
原告車が本件事故により破損されたこと、したがつて、原告の右車輌に対する所有権が侵害されたことは、前記認定のとおりである。(なお、原告の身体等人格的利益が右事故により侵害された事実の主張・立証はない。)
しかしながら、右財産権の侵害により、仮に原告に何らかの精神的苦痛もしくは損害が生じたとしても、特段の事情の認められない本件においては、右財産権の侵害による財産的損害が填補されれば、精神的苦痛・損害も同時に慰謝され填補されたと見るのが相当である。
よつて、原告主張の右慰謝料は、これを肯認することができない。
確に、原告車が所謂クラツシツクカーであること、原告が本件事故前右車輌を日々丹念に手入れし磨き上げていたことは前記認定のとおりであつて、右認定事実からすれば、原告が右車輌に対し特別の愛着心を有していたことが推認できる。
しかしながら、右認定にかかる特別の愛着心の存在をもつて、右説示にかかる特別の事情に該当するということはできない。
蓋し、右特別の愛着心に対する侵害とそれによる精神的苦痛は通常生ずべき損害とは認め難いからである。
三 弁護士費用 金二七万円
前記認定の本件全事実関係に基づき、本件損害としての弁護士費用を金二七万円と認める。
(裁判官 鳥飼英助)
事故目録
一 日時 平成元年一月二六日午後二時頃
二 場所 宝塚市長尾台二丁目六番一三号原告方前付近道路脇
三 加害(被告)車 被告所有吉岡浩司運転の普通貨物自動車
四 被害(原告)車 原告所有の普通乗用自動車(ホンダS八〇〇オープン四二年式)
五 事故の態様 被告車が本件事故現場付近を走行中、右事故現場に駐車してあつた原告車に衝突し、原告車を右現場道路脇溝に落下させた。
以上